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精神科コラム

「老人力」って、知っていますか?

「老人力」って、知っていますか?

 

 皆さんは、「老人力」という言葉を聞いたことがありますか。芥川賞作家であり、前衛芸術家でもあった故赤瀬川原平とその友人等が使い出した言葉で、1998年に出版された「老人力」(赤瀬川原平著、筑摩書房)で一躍日本中に広まりました。その年の流行語大賞候補にもなっています。その意味するところは、赤瀬川さんによれば、「ふつうは歳をとったとか、モーロクしたとか、あいつもだいぶボケたとかいうんだけど、そういう言葉の代りに、『あいつもかなり老人力がついてきたな』というふうにいうのである。そうすると何だか、歳をとることに積極性が出てきてなかなかいい」というものです。

 

 当時、私も「老人力」を買って読み面白い事を言うなと感心しました。しかし当時は、まあそうは言っても老化も認知機能の低下も基本的に止められないよね、認知症を周囲の人が少し明るい気持ちで受け入れるのに効果があるかな、くらいの感想でした。

 

 ところが近年の研究で、肯定的な向老意識(老化を前向きに考える姿勢)が、実際に認知機能の低下を抑える(認知症になりにくくする)とする報告が続々と出されています。老化に対して、明るいイメージを持っている人は、そうでない人に比べて認知症を発症する可能性が低くなるのです。また、意識して老化を明るくとらえることで、元々楽観的でない人も認知機能の低下を抑えられるとの報告もあります。さらには、ポジティブな気持ちや生活態度・習慣を維持することで寿命そのものが伸びるとする研究もなされています。

 

 赤瀬川さんたちが唱えた「老人力」の考え方は、単に老化や認知症に対しての周囲の受け取り方の改善のみでなく、そう考えるその人本人の老化そのものを遅らせ、認知症になりにくくする可能性があるのです。赤瀬川さん自身は77歳で亡くなり、特に長命ではありませんでしたが、人生のあらゆる事に興味をもち、病床にあっても「人生を明るく捉えて楽しむ姿勢」を崩さず、身をもって「老人力」を体現した人生だったと思います。

 

副院長 梅野 一男