認知症告知について①
「癌は秘密であり、スキャンダルである。」これは1970年代、まだ不治の病であった癌という診断の社会的、経済的損害を表す「揶揄としての病」という本の中の言葉らしい。
癌に関しては、時代が進み、必ずしも不治の病とまでは言えなくなったきた分、告知することも格段に増えたと言えるし、告知すべきという風潮もあるように思う。一方で認知症はどうだろう。医者になって17,8年経つが、自身の診察での型のようなものはあるが、本質的な答えは定まっていない。
私は、診察にて認知症が確定した場合は、まずはご家族のみお呼びし、診断や治療について説明する。
その上でケアや薬剤、福祉サービスの導入など必要なことを本人に「物忘れの予防」というあいまいなニュアンスでやんわりとお伝えしながら、信頼関係の構築にまずは重きを置く。
「認知症」という言葉は原則使わないように配慮するし、その言葉が自尊心を傷つけたり、信頼関係を阻害する要因になってはいけないからだ。
しかし、これは私の中にもいくらかの差別的もしくは「不治の・・・」という観念があることの証左でもある・・・のだろう。
難しい問題だ。
精神科診療部長 坂本 成映