ADHDについて
今回はADHD(注意欠如・多動症)について説明したいと思います。昨年、コラムで書いた自閉スペクトラム症(以下ASD)と同様に神経発達症の一つとされる病態で、不注意(集中力を持続することが難しく、物事に注意が向きにくい。細かいミスをすることが多い)や多動性(じっとしていられず、そわそわする)、衝動的な行動(順番を待ちきれなかったり、短絡的な行動を取ってしまう)を特徴とします。一般的に小児期に診断されることが多いですが、成人してからも症状が持続する場合があります。また、人によって多動性・衝動性が目立ったり、不注意症状が優勢であったりするなど個別性、多様性が大きい病態であります。
ADHDも自閉スペクトラム症と同様、上記のような特徴から周囲とうまく折り合うことが難しく、慢性的な不適応状態が続いて、二次障害といわれる精神的・身体的な問題が生じることがしばしば見られます。具体的には不安症、うつ病の他に、非行や犯罪行為などの秩序破壊的、非社会的行動を示したり、間欠爆発症など他者への深刻な攻撃性を示したり、アルコールや薬物乱用などの物質使用症やギャンブル行動症、ゲーム行動症といった嗜癖行動などが認められることもあります。
また、一人の人でも複数の神経発達症で併存する場合もあり、特にADHDとASDの症状が様々な強度で重複することは知られており、ADHDと診断される人の20~50%はASDの診断基準を満たし、ASDと診断される人の30~80%はADHDも重複するとされ、両者が重複するケースでは複雑な様相を呈し、専門家でも判別したり、個々人に合わせて個別の治療や支援の方針を決定するのに苦慮することも少なくありません。
(参考文献:本田秀夫編集:講座精神疾患の臨床 神経発達症群.中山書店, 2024)
精神保健指定医 田中 大三