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精神科コラム

せん妄という言葉を聞いたことはありますでしょうか?

 せん妄あるいはせん妄状態とは、環境の変化や全身状態の悪化、あるいは薬剤による影響などで普段であれば見えないような幻覚が見えたり、興奮状態を呈したり、あるいは呼びかけても反応が虚ろであったりするなどの状態のことを言います。急速に発症し、一日のうちでも夜間にそのような状態を呈したかと思えば、日中には普段通りであったりします。

 

 せん妄が問題となるのは主に内科、外科を中心とした救急医療を含む急性期医療を提供する総合病院で、思いがけず入院になるなど環境の変化に加え、また、身体的にも重症である患者さんが多いです。せん妄になりやすい方の年齢としては高齢になればなるほど発症率は高いとされています。治療の場においてせん妄を発症し、興奮状態になるなどすると、安静を保てなくなり、点滴などを自己抜去したり、あるいはベッドから転落したり、転倒したりするなど生命の危険に直結することもあります。

 

 しかし、せん妄は病院だけで起こるとは限りません。家庭環境の変化や隠れた身体的な不調、処方された薬剤の影響などで自宅などでも起こることはあります。

 

 患者さんがせん妄状態を呈すると、いつもの本人の様子を知っている家族の方から「認知症になったのですか?」と尋ねられることもありますが、認知症は数日単位で進行するものではないので、まずはせん妄を念頭に考える必要があります。もちろん脳卒中やその他の身体的な病気の可能性もありますので、医師の診察を受ける必要があります。

 

 せん妄に対する治療としてはまずは身体的な不調があればそれに対する治療を行うことはもちろんですが、せん妄の原因となっている薬剤があれば中止し、本人にとって不快な環境が誘因になっているようであれば可能な限り不快さを軽減できるように環境を調整したり、昼夜逆転しているようであれば日中は覚醒を維持してもらい、夜しっかり眠れるように指導したり、必要な場合は精神科の薬物療法を用いてせん妄の改善を図ることもあります。

 

(参考文献 和田健著:せん妄の臨床 リアルワールド・プラクティス. 新興医学出版社, 2012)

 

精神保健指定医  田中 大三