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精神科コラム

知識の不思議:獲得性サヴァン症候群

 前回のコラムでサヴァン症候群についてお話ししました。

 

 映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じたレイモンドのような、生まれつき知的障害を持つ人に見られる、特別に優れた能力のことでした。

今回は、本来は正常であった人が、何らかの脳の疾患によって、後天的に特異な能力を発揮する現象についてお話します。サヴァン症候群に対して、獲得性サヴァン症候群や後天的サヴァン症候群と呼ばれます。

 

 10歳の少年はある日、野球のボールを頭に受けて気を失いました。その後彼は、事故後の全ての日について、その日が何曜日であり、どんな天気だったか正確に思い出せるようになりました。

40歳の会社員の男性は、頭をプールの底で強打し脳震盪を起こし片耳が不自由になりました。その後彼は、それまで触ったこともなかったピアノに強い興味を覚えます。頭の中で黒と白の小さな点が浮かび、それを音符に置き換えてピアノで演奏できるようになったのです。現在彼は、作曲演奏活動を仕事にしています。

 

 この二人の様に、頭部の事故後に特異な才能が開花する例が分かりやすいですが、実は獲得性サヴァン症候群で一番多い原因は、認知症の一種である前頭側頭型認知症だと言われています。前頭側頭型認知症で機能低下する前頭葉は、脳の働きとしてはブレーキとしての役割が大きいのです。つまり、前頭側頭型認知症になると脳のブレーキが弱まり、それまで押さえつけられていた能力が発現するのではないかと考えられます。

 

 また、ある研究者は、脳には様々な能力がもともと存在しているが、発揮できる能力の総量が個人ごとに決まっていて、ある能力を失うと今まで隠れていた別の能力が発揮されるのではないかと考えています。

 

 このような、隠れた能力を事故や病気ではなく、人の力で発揮させようという研究も行われ始めています。頭皮から弱い電流を流す経頭蓋電気刺激という手法で、サヴァン症候群のような能力の誘発に成功したとの報告もあります。まだまだ、試験段階ですが将来、病気の治療や能力開発に使われるかもしれません。本当に人間の知能は不思議ですね。

 

 

副院長 梅野一男