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精神科コラム

せん妄の架空症例

 78歳の男性。退職後で自身の趣味を満喫し、ときに車で遠出するなど活動的な方。高血圧、糖尿病などで近くの内科に通院継続中。定期受診時に不眠を訴えたため、医師が睡眠薬ゾルピデムを処方した。

 

 3日後より夜間に「人が来ている」と玄関まで行って、戻ってきたりするなどの奇異な行動を妻が確認している。本人に尋ねると、記憶はなく、「そんな感じの夢を見ていた気がする」と語った。日中は普段と変わらない様子であった。同様のことが連日続いたため、心配した妻がかかりつけ医師に相談した。

 

 受診から1週間後、再度かかりつけの内科に受診し、診察、血液検査などでは特に異常がみられなかった。医師は最近の周囲の環境の変化の有無や薬剤の変更を確認し、ゾルピデムによる薬剤性の夜間せん妄の可能性を考え、中止を指示した。その後は夜間に同様のことが起こることはなかった。

 

 このケースでは高齢であること、高血圧、糖尿病といった基礎疾患がせん妄の準備因子(せん妄を起こしやすくする要因)となり、睡眠薬ゾルピデムが直接原因となったと考えられます。一般的に高齢になればなるほど高血圧、糖尿病などの病気を複数抱えている方が多く、それに伴って薬剤の種類、量も多く内服されている傾向が高いです。また、複数の医療機関から薬剤を処方されていることもあり、その中にはせん妄の原因となりうる薬剤もあります。

 

 本人さんや近くにいるご家族さんもせん妄のことを念頭に置いておくと、発見が早く、早急な対処が期待できるかもしれません。

 

精神保健指定医  田中 大三