適応障害 架空症例
40歳 男性
中堅商社に勤務している。30歳で結婚し2子をもうけた。現在、妻、子供と4人暮らし。
会社では営業の仕事をしており、勤務態度や業務成績も問題なく、職場への適応は良好であった。3ヶ月前に人事異動のため上司が変更となったことで所属している部署の方針が変更となり、プロジェクトリーダーに抜擢されるなど責任ある仕事を任されるようになった。嬉しい反面、せっかく任されたのだからなんとしても結果を出したいとプレッシャーを感じており、遅くまで残業するようになった。当初は家族にも「大きな仕事を任されたから嬉しい」「結果を出せば昇進できるかもしれない」と意欲的な発言をしていたが、徐々に「自分には荷が重い」「仕事に行くのが辛い」と話すようになった。その頃には会社でも「書類のミスが多い」「会議の予定を忘れる」など注意されることが増えていった。
妻が「上司に相談して仕事を減らしてもらうことはできないの?」「最近残業しすぎじゃない?」と尋ねると、「上司も変わったばかりだから相談できない。自分の仕事だからなんとかやり遂げないといけない」と妻の助言を聞き入れなかった。徐々に仕事に行くのが億劫になり、仕事のことを考えると頭痛や動悸がする、気分が落ち込む、眠れないなどの症状が出現したが、休日は症状は改善しており、日常生活には支障はなく、子供と遊びに行くなど普段と変わりはなかったため本人、妻ともにそれほど心配はしていなかった。
ある日些細な書類のミスから取引先からクレームが入り、幸い大事には至らなかったが、帰宅した際に「もう仕事に行きたくない」「みんなに迷惑をかけてしまう」と非常に落ち込んでおり、数日間会社を休んだ。仕事を休んでいると症状は改善していったが、いざ出勤しようとすると、頭痛や動悸がひどくなり、体が重くて起きれないといった状態で出勤できなくなった。心配した妻に勧められメンタルクリニック受診となった。
休日は症状が落ちついており、仕事から離れた場面では症状が改善していることから適応障害と診断され、休職することとなった。職場内でも産業医や上司等で対策が検討され、上司からも「異動したばかりで状況が把握できていなかった」「成績優秀な社員だったので特に問題ないと思っていた」との発言があり、今後は報告や相談がしやすい体制を整えることになった。その後、産業医との復職面談や短時間勤務等の試し勤務を経て復職し、症状の再燃はなく経過している。
精神保健指定医 沢田 雄太