精神科医としての驚き、気づき、反省(その2)
Bさんは90歳を過ぎたアルツハイマー型認知症の女性で、面会に来る息子さんの顔も分からず、いつも「先生、お元気ですか」と言います。それでも息子さんは、「はい、おかげさまで元気です」と笑顔で答えていました。
ある冬の日、朝から大雪が降っていました。Bさんは病室の窓に顔をくっつけんばかりにして、外の雪を見ていました。そんな大雪の中を、息子さんが面会に来ました。
Bさんは、息子さんが小学生の頃まで雪深い土地で暮らしていて「こんな大雪を見たら母が少しは元気になるかと思って」と息子さんは言いました。残念ながら、その日もBさんは息子さんを思い出すことはなく「先生、こんな雪の日にご苦労様です」と言いました。
そこに、若い看護師が雪だるまを、給食のお盆に乗せて持ってきました。看護師が「Bさん、雪だるまですよ」とお盆を差し出すと、Bさんはいきなり雪だるまを両手で握りつぶし「雪が湿ってる、今年の夏は暑くなる」と言いました。そして息子さんを見て「○○(息子さんの名前)、飯は食べたけ?」と言いました。息子さんが「食った」と答えると、Bさんは満足げに頷き、また窓の方を向き黙り込みました。
認知症が進行したBさんですが、雪の感触を手で触ることで、一時若い頃の記憶がよみがえったようです。その後は二度とBさんが、息子さんを思い出す事はありませんでしたが、患者さんの五感に訴える事の大事さを痛感した出来事でした。
副院長 梅野 一男



