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精神科コラム

老年期の精神疾患 その2

前回からの続き)

 前出の患者さんですが、妄想の治療を求めるご家族に対しては、本人が決して治療を受け入れないだろう事、また家族と病院が無理やり入院させたりすれば、信頼関係が損なわれ、却って治療的なアプローチが困難になる事を説明しました。

 

 その後、ご家族は妄想には触れず、頻繁に独り住まいのご本人を訪ねるようになりました。やがて子ども達とお孫さん達が、ご本人を囲んで楽しそうに会食している写真を見せてくれるようになりました。驚くべき事に、それは今まで決して訪れる事の考えられなかった、夜のレストランの風景でした。家族のつながりは以前よりも強くなったようでした。

 

 患者さんは恵まれた家庭に育ち、幸せな結婚の後、夫の事業も大成功で順風満帆の人生を送っていました。ところが夫の家出と離婚要求という破局が突如訪れた時、子ども達は既に家庭を持ち、50代からの孤独な人生を独りで生きることを迫られたのです。大変なショックであったことは想像に難くありません。この時から彼女の『不治の病』は始まりました。「最新の治療法で治るかもしれないから」と受診を進めても、まるで治っては困るかのように受診を拒み続けます。

 

 『妄想さえ無ければ一人で何でもできるのに』と家族は思っていたのですが、本人にとっては妄想のおかげで、家族が頻繁に訪ねて来てくれるようになったのです。あたかも、そのために「妄想」を生み出しているのではないかと疑うほどに。

 

 厄介なのは、本物の「妄想」と「妄想のふり」(詐病)を科学的に識別し得る手段がにないことですが、それが病気であるか否かに関わらず、本人の人生に思いを巡らせた時、腑に落ちる「病状」があるのも事実なのです。

 

 

精神保健指定医  豊福 正人