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精神科コラム

老年期の精神疾患 その1

 日本では、2010年には超高齢社会を迎え、精神科診療の現場でも高齢者の様々な疾患を診る機会が増えてきました。その中で、「遅発性パラフレニー」という聞き慣れない病状の方が受診される事があります。患者さんは大抵、自ら受診することなく家族から促されたり、あるいは地域包括ケアシステムからの情報に基づいて受診に至ったりします。

 

 当時、70代後半の女性は、「日光に当たると目をやられる」と訴え始めて、既に20年近くアパートでの一人暮らしを続けていました。窓を黒い紙で覆って、完璧に日光を遮断し、昼間は決して外に出ません。食物や生活品は子どもたちが運び込んでくれます。「病院で処方された薬が最初の原因」と考えているので、家族が勧めても決して受診には応じません。そこで、「健康診断のため」と偽って、看護師さんと一緒に往診しました。

 

 認知症のテストには素直に応じられて、結果はほぼ正常で、テストの後には百人一首を滔々とそらんじられました。「目の異常」についてはあまり触れずにお話を伺うと、これまでの子育ての事を自慢げに話されました。そして「浜辺で卵を産んだ海亀が、涙を流しながら海に帰って行くのよ」と言いながら涙ぐまれました。


 

 ご家族によると奇妙な訴えが始まったのは、夫が突然家出して間もなくの頃と言います。しかし夫婦関係や、その後離婚に至った経緯などについて聞こうとすると、和やかだった表情が急にこわばるので、それ以上伺うことはできませんでした。が、これからも往診や訪問をしたいことを告げると、寧ろ大歓迎して下さいました。

 

 その後、定期的な往診と、いつも通りの家族の往来が続きましたが、「日光に当たると目をやられる」との訴えは決して変わらず、デイケアなどのお誘いにも、決して応じられませんでした。

(次回につづく)

 

精神保健指定医  豊福 正人